うつ病
1日中気分が落ち込んでいる、食欲がない、眠れないといった事が続いている場合、うつ病の可能性が否定できません。
「こころの健康についての疫学調査に関する研究」によると生涯のうち約16人に1人がうつ病を発症するという報告があります。
精神疾患のなかでもうつ病は最もよく知られる疾患で、決して特別な病気ではなく、誰でもなりうるものです。うつ病について正しい知識を身につけましょう。
目次
うつ病は脳の神経障害です
うつ病はストレスなどにより脳が変化して起こる「脳の神経障害」です。
何らかのストレスがきっかけで脳のエネルギーが欠乏し、普段通りの思考や生活ができなくなる状態を指します。
日常生活で受けるストレスにおいて、憂うつな気持ち・気分が落ち込む事は、人間であれば誰にでも起こりえます。
人間関係の悩みや仕事での失敗、大切な人やペットとの別れなどが原因で悲しい気持ちになるのは当たり前の感情です。
しかし健康であれば、気持ちが落ち込んでいても原因の解消や気分転換で、時間の経過と共にもとの精神状態へと戻っていきます。
しかしうつ病の場合は、落ち込みの原因が思い当たらない事も。あるいは原因が解消された場合も気分が回復せず、日常生活に大きく支障をきたしてしまいます。
生真面目・責任感が強い人はうつ病になりやすい
うつ病になりやすい人の性格として挙げられるのが、生真面目・責任感が強い・完璧主義が代表的です。
社会的な評価は高いですが、他人の評価を気にしてストレスを溜めやすい傾向が。
また、悲観的、思い込みを信じやすいといった考え方のクセを持つ人も、うつになりやすいとされています。
とはいえこういった性格の人が必ずしもうつなるわけではなく、あくまでも危険因子の一つです。
遺伝や身体の病気もうつ病の原因に
家族など近親者にうつ病の発症歴があった場合も発症率が高く、体質(遺伝)も影響していると考えられています。
身体の病気からくるうつ病に関しては、病気の症状や治療薬によって、身体の中の様々な物質バランスの崩れから脳に影響が加わり、うつ状態となる場合が。
原因となる病気としては、「膠原病」「脳血管障害」、薬では「副腎皮質ステロイド」「パーキンソン病」の治療薬などがあります。
うつ病は精神・身体の両方に症状が認められます
うつ病の症状は、精神症状(心)、身体症状(体)の両方に認められます。気分の落ち込み、意欲の減退はうつ病の2大症状です。
しかし、睡眠障害や全身倦怠感などの身体症状が前面に現れる場合もあります。
憂うつ気分などの精神症状よりも、体のだるさや疲労感などを主訴とする「仮面うつ病」は、心療内科や精神科よりも先に内科を受診してしまいます。
当然内科的に問題はありません。心療内科を進められ、受診をきっかけにうつ病であると発覚するケースも少なくないです。
身体は特に問題はないのにも関わらず、身体的な症状が続く場合はうつ症状である可能性があります。
心の症状
うつ病における心の症状は以下が挙げられます。
・抑うつ(憂うつ)
・不安・焦り
・会話や本の内容が入ってこない
・興味や意欲の喪失、低下
・自分を責める
・死んでしまいたい、消えてしまいたいと思う etc
・典型的な症状は抑うつです
うつ病の基本的な症状は抑うつ気分です。「憂うつ」「気分が沈む」といった気分に陥ります。また焦燥感、不安を感じる場合が多いでしょう。「ちょっとした事が心配でたまらない」「些細な事でもイライラしてしまう」など精神的に落ちつきません。
・思考力が低下します
思考スピードが低下し会話の内容や本の内容が入ってきません。 「頭が働かない」「考えが浮かばない」「決断力が鈍い」という症状があり、仕事能力も低下します。
・意欲が低下し、活動量が減少
「やる気が起こらない」「何事も億劫である」「以前は簡単だった作業も時間がかかる」と行動面へ影響があります。
・悲観的な考えに支配されます
常に自分を責め、「自分は無力な人間だ」「他人に迷惑をかけてしまっている」「死んで楽になりたい」「消えてしまいたい」と考えるようになります。
体の症状
うつ病で引き起こされる体の症状は以下があります。
・睡眠障害
・食欲低下
・全身倦怠感
・体重減少
・性欲減退
・頭重感
・自律神経症状 etc
・うつ病患者のほとんどが睡眠障害を伴っています。
うつ病患者の82~100%は睡眠障害を発症しています。睡眠障害には不眠と過眠の二通りありますが、多くみられるのは不眠の方です。
夜なかなか寝付けないだけでなく、夜中や朝早くに目が覚めてしまう、ぐっすり眠れないという症状があります。
・すぐに疲れてしまう、体がだるいと感じます
以前は難なくできていた作業も努力を要します。疲労感や倦怠感は睡眠障害に次いでよくみられる症状です。
疲労感や倦怠感があると、日ごろのちょっとした動作(朝起きて着替える、歯を磨くなど)も辛くなります。
・食欲や性欲が減退します
食欲にも変化が見られます。食欲の減退、増加の2通りがありますが、よくあるのが食欲の減退です。
食欲減退は体重減少にも繋がります。
・体の痛みを伴う場合も多いです
うつ病は精神的な症状があるイメージを持つ人も多いですが、体の痛みを伴う場合もあります。
頭重や頭痛、肩こりや背面痛など痛む部位や程度は個人差があるでしょう。
・月経不順、動悸、口が渇く
うつ病は自律神経が乱れているために、それに伴い月経不順や動悸、口の渇きなどを訴える場合も少なくありません。
うつ病ではこれ以外にも様々な※1自律神経症状がみられます。
頻脈、息苦しさ、めまい、便秘・下痢、腹痛、胸の圧迫感、血圧の変化、腹部膨満感 月経不順、動悸、口渇
うつ病治療の基本は「休養」「精神療法」「薬物療法」
うつ病治療の基本3本柱は、しっかり休養をとる・精神療法(カウンセリング)・抗うつ剤などの薬物療法です。 症状によってこれらを組み合わせ、治療を行います。
うつ病治療で目指すのは、発症前と同じ生活に戻る事ではありせん。
症状を好転・ほとんど消失させ、薬などで症状をコントロールしながら以前と同じ生活を送れるようにする「寛解」を目標とします。
適切な治療により多くの人が寛解に至りますが、再発の可能性もゼ高い病気であるため油断は大敵です。
うつ病は、診断を受けてから回復までに時間がかかります。できるだけ早く適切な治療を受けるようにしましょう。
休養をとり、心と体を休ませる
人間には自然治癒能力が備わっています。
うつ病は脳のエネルギー不足によっておこるため、心と体を休めなければいけません。
痛めた所を無理に動かそうとすると治りが悪くなるように、しっかりと休養をとる事がうつ病を改善させる近道となります。
ストレス軽減のために、職場、学校、家庭など環境の調整が必要です。職場の勤務時間を減らしてもらう、家事を分担するなど工夫をしましょう。
薬物療法
脳の機能を改善させ、症状を軽減させるために抗うつ剤などの薬物療法が行なわれます。
抗うつ剤は心の状態を戻していくための薬ではなく、脳内伝達物質の働きを正常へ整える事が目的です。
うつ病の場合、幸せホルモンのセロトニン、やる気や集中力を高めストレス耐性をつけるホルモンノルアドレナリンが減少します。
こういったホルモンの量を調整し、脳内環境を整えるのが抗うつ剤です。 病状によっては抗不安薬・睡眠薬・安定剤なども併せて使用します。
抗うつ剤に即効性はありません。継続した服用によって効果を発揮します。
精神療法(カウンセリング)
精神療法と薬物療法を並行して行なうのは、うつ病に効果的です。
発症する前の考え方や行動を振り返り、改善していくのは治療や再発予防になります。
うつ病患者は元来の性格から、社会的に評価が高い人も多い半面、過度に自分を責めストレスを受けやすいといった面も。
以下は精神療法で用いられる治療法です。
・認知行動療法
物事の受け取り方や見方を認知と言います。認知に働きかけ、精神的ストレスを軽減していくのが認知行動療法です。
マイナス思考、悲観的な物事の捉え方、考え方のクセを改善し、ストレス耐性を強くします。
・対人関係療法
対人関係療法とは、人との関わりの中で生じる問題を対処する方法を身につけるためのものです。
うつ発症のきっかけには対人関係の問題が隠れている場合も多く、これを解消する事がストレスの軽減に繋がります。
うつ病回復までの期間は1~2年です
うつ病が回復するまでの過程は以下の通りです。
・急性期(1~3カ月)
症状が最も強く現れる期間。場合によってはほとんど寝たきりになる事もあります。
薬物療法と十分な休養が必要です。
・回復期(4~6カ月以上)
症状は良くなったり悪くなったりを繰り返し、徐々に回復に向かう期間です。
この時期に2カ月以上症状がなく、再発の兆候が見られない場合は寛解とみなされます。
気力も回復しはじめるため、治ったと思い治療を自己判断で辞めてしまうと、症状が再び悪くなり、うつを発症する可能性が高く注意が必要です。
・再発予防期(1~2年)
うつ病は再発しやすいため、再発予防する治療を行ないます。
回復後も1~2年は薬物慮法を続け、体調を維持する必要があるでしょう。
この時期も自己判断で薬を中断したり、飲み忘れなどがないように注意しなくてはいけません。精神療法などカウンセリングも並行して行ない、再発予防に努めましょう。
再発を防ぐポイント
病気の再発を防ぐために自分でできることもあります。
1.睡眠をしっかりとる
うつ病でなくても、不眠が続いた場合はうつ病になるリスクが高まります。睡眠は心身の健康を維持するのに欠かせません。就寝・起床時間を一定に保つのを心がけましょう。
2.ストレスをためない
ストレスを溜めこまない事が予防に繋がります。読書や散歩、旅行など自分なりの解消方法をみつけ、こまめに発散していきましょう。
3.働き方を考える
残業や休日出勤を避ける・仕事量を調整する・人間関係の問題は上司に相談するなど、仕事で心の負担が多い場合は働き方を考えましょう。
4.適度な運動を心がける
運動はうつ病予防に有効で、ストレス発散、食欲の増進、睡眠の質を高める効果があります。しかし負担が大きな運動は活性酸素を増やし逆効果です。
自分の体力に合わせ、続けやすく無理のない運動を心がけましょう。
5.自分の性格・考え方を見つめる
生真面目・几帳面・完璧主義などはうつ病になりやすい性格とされています。悲観的な考え方になってしまうクセがある人も再発のリスクを高めてしまうため、自分の性格を理解し見直す事が大切です。
カウンセリングを受けるなど、無理が生じないようにコントロールするのも一つの手段でしょう。