不妊症とは
避妊しないまま性行為をおこなっていても、1年間妊娠することがなければ不妊症だと判断します。
妊娠・出産を希望している健康な夫婦やカップルのうち、約10%の割合で不妊に悩んでいるとされています。
病院やクリニックでの検査をせずに「不妊症かもしれない」と不安を抱えている方を含めると、さらに多い割合だといえるでしょう。
女性が妊娠・出産をするので男性には関係ないというイメージがありますが、実際は不妊患者のうち、半数近くが男性であることも分かっています。
妊娠を望んでいるのになかなか成立しない場合は、男女ともに検査や治療を受ける必要があります。
目次
女性不妊症の原因
不妊症のおよそ41%は、女性に原因があると考えられています。
また女性は、年齢を重ねるごとに自然に妊娠することが難しくなり、不妊率が高くなってしまいます。
・月経量や周期に異常がある
・性感染症にかかったことがある
・骨盤腹膜炎にかかったことがある
・子宮筋腫や子宮内膜症を発症したことがある
女性の不妊症は、排卵や卵管、頸管など、妊娠に関わる機能に異常をきたしていることが原因。
妊娠を目指すためには、体のどこに疾患があるのかを調べることが大切です。
排卵因子
月経不順の場合は、排卵障害を引き起こしている可能性があります。
このとき高プロラクチン血症や多嚢胞性(たのうほうせい)卵巣症候群、早発卵巣不全などの機能不全が影響していて、稀発月経や無排卵に陥りやすいとされています。
ストレスやダイエット、肥満(BMI26以上)、痩せすぎ(BMI17以下)により引き起こされる可能性があるため注意しましょう。
卵管因子
卵管は精子が卵子と出会うために通り、受精卵が子宮内膜に着床するために再び通る器官です。
そして炎症や癒着、閉塞などが起きていると卵管に卵子が取り込まれにくくなるため、精子の侵入とともに受精卵ができにくくなります。
過去に虫垂炎など骨盤内の手術経験がある場合や、子宮内膜症が潜んでいた場合は卵管周囲の癒着が起こる可能性があるのです。
他にも、クラミジアまたは淋菌感染症によって骨盤内炎症性疾患(骨盤腹膜炎など)を引き起こすこともあるため注意しましょう。
卵管炎や骨盤腹膜炎は、ほとんどの人が無症状で卵管が詰まっていることに気付きにくいとされています。
子宮内膜症に関しては強い痛みを引き起こしやすいので、ここ2~3年で月経痛が悪化したり鎮痛剤が手放せないなど思い当たることがあれば、なるべく早く対処してください。
子宮因子
受精卵ができた場合でも、子宮内膜にうまく着床できなければ妊娠も不可能です。
先天的に子宮が変形している子宮奇形や粘膜下筋腫、子宮内膜ポリープなどは受精卵の着床障害につながってしまいます。
男女含めた不妊症全体の1~3%を占め、女性不妊症の2~7%が子宮因子といわれているのです。
30歳以上の女性20%~30%に起こる確率がある子宮筋腫のうち、15%~25%は粘膜下筋腫ともいわれています。
子宮内膜内の血行不良や子宮内の炎症・癒着などが受精卵の着床や成長を妨げる可能性があり、不妊につながりやすくなるのです。
頸管(けいかん)因子
子宮の出口付近にある筒状の部分のことを頸管といい、その内部にある粘膜の状態や分泌量によって妊娠しにくい状態になってしまいます。
それは粘り気があって濃い状態であったり、分泌量が減った酸性状態の場合、精子を子宮内へ侵入しにくくするのです。
そして、子宮頸部の炎症や手術後または奇形によって、頸管粘液の減少が引き起こされることもあります。
免疫因子
細菌やウイルスに対する免疫機能のように、精子に対しても攻撃する抗体(抗精子抗体)を持つ免疫異常により、妊娠しにくくなる可能性があります。
本来は排卵期が近づくと精子が子宮内に侵入しやすい状態になりますが、頸管粘液に精子に対する抗体が分泌されるので、運動性の高い精子であっても卵管の通過や卵子との受精を妨げる作用をしてしまいます。
原因不明
さまざまな不妊の原因を探っても、明らかなことが見つからない場合を指していて、不妊症の約20%を占めています。
検査では見つかりにくい原因が潜んでいて、何らかの理由で受精卵ができにくかったり、精子もしくは卵子自体の妊娠する力が弱いまたは無い場合もあります。
また30代後半~40代前半にかけて妊娠する力は低下するため、加齢が原因となるケースもあります。
男性不妊症の原因
不妊の原因のおよそ48%が男性にもあります。
男性不妊症は、精子の質や射精に問題があるため受精に至りにくい状態。
原因は造精機能障害、精路通過障害、性機能障害の3つがあり、80%以上が造精機能障害だと言われています。
・性感染症にかかったことがある
・陰嚢の大きさが左右で違う
・性機能や性欲が正常ではないと感じる
男性不妊症は、先天的な体の問題から感染症の罹患までさまざま。
しかし、約半数が原因不明の女性と違って、きちんと検査すれば原因は特定・治療しやすいという特徴があります。
造精機能障害
造精機能障害は、精巣やホルモン分泌の異常によって精子を作り出す機能に問題がある状態です。
症状には段階があり、精子無力症や乏精子症・無精子症と呼ばれていて、受精できる確率は次第に低下していきます。
・乏精子症・・・精子が基準より少ない状態
・精子無力症・・・精子の数は正常だが、運動率が悪い状態
・無精子症・・・精液中に精子がまったくない状態
無精子症はもちろん、精子の数が少なかったり運動率が悪い場合も、卵子との受精がおこなわれる卵管へ到達できる数が減って妊娠しにくくなります。
精路通過障害
精子は精巣できちんと作られているにも関わらず、精子の通り道となる精路が塞がっている状態です。
生まれつき塞がっていたり、精巣の炎症や睾丸(こうがん)の手術後、鼠径(そけい)ヘルニアなどによって精路がつまる場合もあります。
また精路感染症によって精巣や尿道が炎症を起こすことで、精路通過障害が引き起こされることもあります。
もし女性へ感染してしまうと、女性の不妊症の原因になるので注意が必要です。
性機能障害
性機能障害は、ED(勃起障害)や膣内射精障害などによって勃起や射精に問題がある状態。
EDや膣内射精障害の原因はストレスやプレッシャー、生活習慣の乱れなど、精神的な要因から身体的な要因までさまざまです。
不妊症の改善・治療
不妊治療は、症状や段階によって方法が異なります。
男女とも、原因がはっきりしている不妊症の治療から始めます。
原因を改善し、自然妊娠できる体作りを目指します。
不妊の原因がわからない、または不妊症治療をしても自然妊娠に至らない場合には、ステップアップ治療を行います。
ステップアップ治療は、段階的に治療方法を変えながら妊娠しやすい状態を作り出していく治療方法。
1.タイミング法、2.人工授精(AIH)、3.体外受精(IVF)、4.顕微授精(ICSI)の順に治療を進めます。
排卵がうまくいかない・月経不順で排卵が不安定だという女性は、ステップアップ治療中に排卵誘発剤を併用します。
卵子を育てて排卵を促すことで、妊娠の確立を高めます。
タイミング法
基礎体温の変化をもとに排卵日を予測し、受精しやすいタイミングに合わせて性行為を行ないます。
尿中LH(黄体形成ホルモン)測定や卵胞チェック、頚管粘液検査などによって、より正確に受精のタイミングを予測する場合もあります。
人工授精(AIH)
事前に採取した精液から成熟した精子を回収し、排卵期に合わせて子宮に注入します。
運動性のある精子を選んで子宮に直接入れることで、受精しやすい状況を作り出します。
精子の注入は医療機関で行ないますが、受精や妊娠成立は自然妊娠と同じように進んでいきます。
体外受精(IVF)
あらかじめ採取した卵子と精子を体外で受精させ、受精卵を子宮内に戻します。
受精は、卵子と精子の力によって自然に行われます。
顕微授精(ICSI)
卵子や精子の状態が良くない場合には、細い針のような寄付を使って精子を卵子の中に注入します。
受精卵が成長すれば、子宮へ戻します。
人工的にできた受精卵でも、子宮に戻したあとは自然妊娠と同じように成長していきます。